赤岳天狗尾根~ツルネ東稜

2016年3月20日~21日、僕等は八ヶ岳東面のバリエーションの入門ルート、天狗尾根~ツルネ東稜に入った。

メンバーは3人。
天狗尾根8年ぶりnavetakeリーダー。
バリエーション初体験の体力自慢Kobさん。
積雪期バリエーションはまだ4回目の僕。

全員バリエーション自体久しぶり。
10月に計画した谷川岳東尾根も、2月の阿弥陀北稜もお天道様とのタイミングがあわず実現しなかった。
この2つが実現していれば3月はもう少しレベルの高いルートに入れたかもしれないと思うが、それはそれ。
山で遊ぶ限りしょうがないこと。
これからも山に入り続ければいいことだ。

無事、完登し、帰宅できて、また山に入れること。
それを一番の喜びとしよう。

今回は三連休。
土日で登り、月曜を予備日としていたが、お天気にあわせ日曜日で登り月曜に下山したことで、山上の素晴らしい世界を味わえた。
自然のリズムにあわせて遊べる環境にいることに感謝しかない。

日曜日、午前3時津久井湖そばの水の苑地付近で、Kobさんの車にピックアップ頂き、一路、八ヶ岳東面へ。
1時間半程で到着。
最近、関越方面が多かったので、とても早く感じる。
奥多摩、丹沢、奥秩父、八ヶ岳にも近い相模原。
山遊びするには本当に恵まれた土地である。

美し森駐車場には雪が全く無い。
それほど寒くもない。
日中は気温もあがりそうだ。

行動中の水分に不安があったので、清里駅前に一旦戻り自動販売機で水を補給し、再度、駐車場へ。
出発の頃にはヘッドランプが必要ない明るさになった。
5時40分頃、駐車場を出発。

林道をひたすら進む。
時折、着衣調整しながら歩き続ける。
地獄谷の沢沿いに来ると雪が出てきた。
渡渉時の岩が凍りついていて滑って怖かった。
何度か靴を水に浸してしまったが、全く中まで染み込んでこなかった。

僕の冬靴ファントムガイドは中々の優れもののようだ。
これまでの冬の山行でも靴下を履き替えたことは一度もない。
透湿性も保温性も素晴らしい。
長い林道歩きの時は少し靴ずれが辛いが…。

林道も終わり、大きな堰堤をいくつか越え、渡渉を4~5回繰り返すと出合い小屋に着いた。
7時40分頃。

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出合い小屋の少し手前で2パーティーと出会った。
僕等と同郷の相模ACは、上ノ権現沢へアイスクライミングへ。
川崎の名門Sクラブは僕等と同じ天狗尾根へ向う。

牛首山にも雪が見えない。
ワカンとストックを小屋の裏側へデポした。
アイゼンとスパッツを装着。

小屋を出てほどなく赤岳沢への分岐が。
看板もある。
地形図で見ると天狗尾根の末端から取り付いた方が楽に見え進言したが、navetakeさんは昔、末端から取り付き藪で苦労したらしい。
僕はあっさり前言撤回。
経験者がいるとやはり心強い。

軽くルンゼ上になっている場所に赤テープがあり、少し登るとあっさり尾根に上がれた。

尾根をしばらく登り続ける。
ラッセルも吹き溜まりで少しある程度。

標高差500m尾根を登り続けた。
先行していたSクラブと混成パーティーの様相になった。

時折開ける視界から、雪をつけた天狗尾根の岩稜が紺碧の空の中、くっきりと姿を現す。
たまらない。
期待に胸を膨らませ歓声をあげた。

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11時過ぎ、カニのハサミと岩稜取り付きに着く。
小休止して岩稜へ。

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三級程度の岩場。
昨夏に天狗尾根を登ったSクラブの面々はフリーで突破。
僕等もフリーで行けなくはないと思うが、久しぶりのバリエーションのため、念のためロープを出した。
ここでもう1パーティ後続が合流した。

1ピッチ目は僕がリード。
小さな草付きの壁と雪稜をそのままロープを伸ばし、50mロープ一杯で支点を作った。

2番目の岩稜へ。
Sクラブは右側の古いザイルに沿ってトラバースし回りこんで雪のルンゼを登っていた。

僕等は左の小さなバンドに向かって左上してからルンゼを直上するルートを選んだ。
リードはnavetakeさん。
下からは灌木が少なく支点が乏しく見えるが、丁度良いところに古いハーケンがあった。
プルージックでKobさんが続く。

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僕はラスト。三級上というところか。
久しぶりの緊張感に心が踊り身が引きしまる。

怖がるな、リラックスしろ。
必要以上に力を入れそうになる自分の体と対話しながら登るこの感覚。
最高だ。
これを昨年の石尊稜以来求め続けていたんだ。

一旦、ロープをザックにしまい、しばらく脆い岩混じりの草付きを歩く。

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大きな岩峰を右からまくと、小さな雪稜と雪面のトラバース。
Sクラブはロープを出して念のため確保。
僕等はフリーで進んだ。
バリエーションに正解はない。
登れたか登れなかったか、降りれたか降りれなかったか。
結果があるだけ。

大天狗手前で岩と草付きのミックス壁が現れた。
僕がリード。

navetakeリーダーは右へのトラバースを薦めたが、僕には草付きの直上の方が安全に見える。
ロープを出してもう少し進んでから判断することにした。

草付き下に行くと確かに逆層ではあるがしっかりアイゼンも効きそうだし、手もある、支点のとれる灌木もある。
一方右へのトラバースは雪が脆くて少し怖く見える。

僕は直上ルートを選んだ。
3~5m直上して、10m程の雪稜を進み、小さなピナクルで支点を取ろうとするが少しぐらついた。
5m先のダケカンバに支点を取って、声をかけ皆を待つ。
「gakuさーん、登っていいのー?」声が聞こえる。僕の声は届いていなかったようだ。
もう一度声をかけて、大天狗を観察したり、ルンゼから登ってくるSクラブの方とお話したりする。
Kobさんが少し時間をかけて登ってきた。
間もなくnavetakeさんが合流。

次はnavetakeさんリード。

大天狗は右のバンドに向かってトラバース気味に登る。
Kobさん中間エイトで、僕が後に続いたが、これは怖かった。
僕とKobさんの間に支点がない場合、Kobさんが落ちると僕も間違いなく引きずり込まれる。
どうか落ちないでくれと祈りながら、Kobさんを追いかけるように登攀した。

岩を抱くようにしてトラバースする部分だけ少しいやらしいが他は2級程度の登り。
まるでゲレンデのような立派なハンガーボルトで確保してもらいながら、
大天狗の創りだす雪の急斜面を僕がリード&トラバースした。

余り行き過ぎると声が届かないのとその先には支点が無さそうに見える。
凍りついた貧弱な木の根に支点をとって、皆を待つ。

日も傾いてきて温度が下がってきた。おまけにここは大天狗のお陰で完全なる日陰。
アルパインジャケットの下は薄っぺらい肌着とTシャツ。
「はよ、来てくれ~、さぶいよう」
足先も手先も体全身が冷えてきた。

全員が合流し、小天狗と大天狗の間のコルへ。
ここからはロープは必要なさそうに見えるが、念のためコンテで小天狗上まで。
雪稜手前でロープをしまい小休止。
僕はフリースを中に着込んだ。

Sクラブの面々も追いつき、お互いに小天狗と権現岳をバックに完登を祝って記念写真を撮った。

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急な雪稜を登り、稜線に出ると鎖場とハシゴが。
どうやら登山道に出たようだ。

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大天狗(右)と小天狗(左)

 

阿弥陀岳南陵のスカイラインの向こう側から斜めに差し込む太陽が、権現岳へと延びる稜線を歩く小さな僕達を照らす。
素晴らしい景色に何度も何度もシャッターを押した。

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阿弥陀岳の向こうに夕日が沈む。

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しあわせだ。

キレット小屋までの下りは急で脆いガレ場、急な雪渓、細い細いトラバースと中々に緊張を強いられるルートだ。

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17時半頃、キレット小屋手前のピーク手前のコルに、一張分の幕営地があったため、僕等はそこにテントを張った。

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早朝発と12時間の行動疲れで酔いが回るのが早い。
何度も水をこぼし、食事と明日の行動用の水を作るのに随分と手間取り、寝袋に潜り込んだのは21時過ぎとなった。
navetakeリーダーが用意してくれたすき焼きとうどんはあっという間に平らげた。

翌日は少し寝坊し5時半頃起床。
6時半頃出発した。

昨日とはうって変わって雲に包まれた世界。

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風も強く手先、足先が冷えてきた。
僕のテムレスは二年物でところどころ穴があいているらしく、途中でオーバー手袋をつけた。
バラクラバをつけるほどではないが、頬が冷たいので、フードを被ってツルネまでKobさんを先頭に登っていく。

ツルネ東稜の取り付きについてからは、何度も尾根の分岐が現れるので丁寧に現在地を確認しながら歩いた。
トレースはほぼない。

下り始めると雪はどんどん柔らかくなり、一度ハマると太もも上までまるごと足がハマり、雪と格闘しながら下った。

ワカンを持ってこなかったことをボヤくと、navetakeさんはこれぐらいは予想していたし、下りだから全く問題ないとのこと。
さすがである。

標高を下げるにつれて風もないし太陽も差し込み、温度もあがる。
時折斜面にはデブリがあり、いやらしいトラバースも強いられたが、問題なくツルネ東稜を下り出合い小屋まで降りた。
着いたのは10時過ぎだったように思う。

アルパインジャケットとオーバーパンツを脱いで、アイゼンとスパッツも外した。
大きく膨らんだザックを背負って歩き出す。

昨日は水にハマりながら歩いた渡渉も水の量がかなり減っていて楽に渡れた。

休憩なしで一気に美し森駐車場まで歩いた。
雪のない駐車場には軽装の観光客がいた。もう春だ。

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